888年 阿衡の紛議

阿あ衡こうの紛議ふんぎ（阿衡事件）は、藤原ふじわらの基経もとつねが関白かんぱくに任命された際の勅書に記された「阿あ衡こう」の位が名ばかりの職であると、基経が抗議した事件です。

勅書の起草者である橘たちばなの広相ひろみが処罰されました。

藤原基経の関白就任

宇多うだ天皇の即位と共に、藤原基経もとつねは、正式な関白かんぱくの位につきます。

関白とは、成人した天皇を補佐しながら政治を行う最高権力者のことです。

宇多天皇

宇多うだ天皇（源みなもとの定省さだみ）は、源姓が与えられ臣籍降下されていましたが、父の光孝こうこう天皇の願いにより天皇として即位することになりました。

母親が藤原氏出身ではなかったため、藤原基経もとつねとの繋がりは強くありませんでした。

阿衡の紛議

888年、宇多うだ天皇が藤原基経もとつねを関白かんぱくに任命する際の勅書が問題の発端となりました。

勅書の起草者は、橘たちばなの広相ひろみです。

橘広相は、勅書の中で藤原基経のことを「阿あ衡こう」と表現しました。

これが大問題となったのです。

藤原基経は「阿衡」という表現に激怒し、関白の職務を放棄してしまいました。

阿衡とは

阿あ衡こうとは、古代中国の官職で職務をもたない最高位の位とされました。

元々は、殷いんの湯王とうおうが宰相の伊尹いいんを阿衡と称したところからきています。

起草者、橘広相

起草者の橘たちばなの広相ひろみは、宇多天皇の側近で学者でもありました。

菅原道真の調停

この深刻な政治的危機を解決したのが、菅原すがわらの道真みちざねでした。

道真は、「阿衡」の本来の意味を調べ、この語が決して基経を軽んじるものではないことを論証しました。

菅原道真の説得により、藤原基経もとつねは関白職に復帰し、政治的混乱は収束しました。

基経の死と菅原道真の抜擢

阿あ衡こうの紛議ふんぎから3年後の891年、藤原基経もとつねが死去します。

これにより政治情勢は大きく変化します。

宇多うだ天皇は、阿衡の紛議で調停役を果たした菅原すがわらの道真みちざねを重用し、蔵人くろうどの頭とうへ異例の大抜擢を行いました。

蔵人頭は、天皇の機密事項を扱う令外官りょうげのかんです。

しかし、この道真の抜擢は後に藤原時平ときひらとの対立を生み、昌泰しょうたいの変（901年）へとつながっていくことになります。